江差線に乗りに行こう!

2014年5月12日をもって鉄路としての役割を終える江差線「木古内〜江差」間。(最終営業日は5月11日)。
そんな残り少ない鉄路の時間を旅してみましょう。

えさし目指すのは廃止区間の全駅制覇!しかし列車のみで「木古内〜江差」間を乗りつぶす場合、木古内町または江差町に宿泊することが必須となる。今回はそうではなく、函館市内に宿泊をするというプランをご紹介することとする。なお、これは代表である私個人が実際に行った行程で、実行は可能ということが証明されているものの、個人の能力・体調などによっては完走が困難な場合もあるということを予め理解の上、参考としていただきたいと思う。

いざ出発!


函館駅朝。まだ静けさの残る函館駅に一両編成の気動車が止まっている。
6時53分。定刻通り列車は動き出す。
徐々に乗客は増えるが席が埋まるというところまでは行かない列車は。木古内駅に到着する。
木古内駅は北海道新幹線開業後、北海道最初の駅となる。現在は地上3面5線を持つ有人駅だが、新幹線は現在の駅裏に現在高架駅が建設中だ。青春18きっぷなどで本州方面へ向かう場合(本州からは北海道へやってくる場合も同様)、「木古内〜蟹田(青森県外ヶ浜町)」に限り特急列車自由席に乗れる特例があることからその名前を知っている人もいるだろう。
木古内駅周辺は今後駅前の整備が進められることが予定されており、現在駅前にある食堂「急行」などは別の場所に移転することとなる。静かな町が今後どのように変化していくのかが楽しみである。

廃止区間へ出発!


函館を朝出発した列車は木古内で約14分ほど停車する。これは函館7時24分発の特急列車との接続を取るためと思われる。朝が弱い方は函館から特急に乗って木古内で乗り換えるという方法も可能であるので、お財布と相談してみてはいかがだろうか?(自由席特急券「函館〜木古内」500円。乗車券別)
8時8分。定刻通りに列車は木古内駅を後にする。
しばらく海峡線と並走し、木古内川の橋梁を渡りすぐの踏み切りを通過するあたりで江差線は右へ大きくカーブをし、海峡線から離れていく。
田園地帯を走ると渡島鶴岡駅に到着する。すぐに降りたいところだが、全駅を制覇するにはここでは降りず我慢。車窓から駅の様子を眺めるにとどめ、この後訪問するときのために期待を含ませておこう。
列車は渡島鶴岡駅を後にし、水田と里山の間を走っていくと吉掘駅に到着する。
黄色くペイントされた車掌車が印象的な駅だが、ここも渡島鶴岡同様のちほどの訪問とするため車窓からの眺めにとどめておく。ホームでは廃止を惜しむ鉄道ファンと思わしき人がカメラを構えて撮影にいそしんでいた。

吉堀を過ぎると江差線のハイライトへと向かう。次の神明駅まではなんと約13キロも距離があるばかりか、険しい峠を越えていく必要がある。25パーミル(1000メートル進むたびに25メートル昇る勾配)という全国的に見てもかなりの急勾配を列車はエンジンをうならせながら進んでいく。冬には雪で、春や秋には落ち葉や露により車輪の空転が発生し、列車が立ち往生してしまうなんていうことも珍しいことではないというから驚きだ。運転席には滑り止め用の焼き砂(砂を焼いたもの)が常に常備されている。
いくつかのトンネルを越え、並走する道路と何度か交差を繰り返し、列車は進んでいく。車窓に広がるのは大自然ばかりで人工物は並走する道路くらいだ。もちろん民家はまったく存在していない。
うなるエンジン音ときしみをあげて列車はカーブを駆け抜け、神明駅へと到着する(8時39分到着) 。ここで初めての下車をすることにする。

えさし神明駅は無人駅だ。板張りのホームに木造の待合室があるだけの駅だが、駅の周辺には小さな集落がある。残念なことに駅名が書かれた看板(縦書きの小さいやつ)は転売目的の不届き物によって外され持ちされてしまい、今ではその後が寂しく残っている。(外した人はその後警察に捕まりました。よい子はマネしないように!)
某ローカル局の製作した番組の中でも紹介された駅であるため、この駅を訪れる人は多い。私が降りたときにもほかに3人が降り、各々駅を満喫していた。
えさし 駅誕生には周辺住民の方の様々な協力があったという歴史がある。建設の際、函館から大工を呼び、宿泊所がないため住民が自宅に泊めながら建設が進められたという心温まるエピソードが残っている。また、ホーム端にはビオラなどが植えられたプランターが置かれ駅を華やかに飾っている。周辺の住民の方々に感謝であるが、蜂がいる場合もあるので注意が少し必要だ。
曜日と時間によっては駅前に移動販売車が訪れることもあるので、出会うことがあれば一度買い物してみてはいかがだろうか。

8時50分。遠くで警笛の音が聞こえてしばらくすると、函館行きの普通列車が入線してくる。
えさし列車に乗り込み、朝来た鉄路を引き換えす。行きはうなりをあげて勾配を昇っていた列車だったが、帰りは下りのためどこか列車も楽そうだ。
9時20分、木古内駅に到着する。木古内駅では記念切符などが発売されている。記念に購入してみるのもいいだろう。また、江差線廃止を受けて木古内町は携帯ストラップや廃止区間の全駅の駅名標が描かれたタオルなどが作られている。買い物のためによった駅舎内の物産店(現在は閉店)のおばちゃんは「江差線は景色がすごいきれいだから廃止はとっても残念」と本当に残念そうに語っていた。江差線グッズは人気が高く、入荷後すぐに売切れてしまうくらい大人気だということだ。廃止が決まってからにぎわうという皮肉な結果だ。

えさし木古内駅からは少々散歩と行くことにする。駅舎を出ると西の方向へ歩を進める。地元の商店を横目に木古内川を渡るとすぐに右折する。列車から見えた海峡線との分岐点となる踏み切りを渡る。
踏み切りを渡るとすぐに新幹線の高架橋が目の前に現れる。高架橋をくぐると周囲は一面の水田地帯と変わり、民家はなくなってしまう。
ひたすらにその道を道なりに歩をすすめることにする。日陰などはないので水分補給などはしっかりとしましょう。また寒い季節にはしっかり防寒対策もしましょう。
しばらく歩くと目の前に大きな建物が姿を現す。旧鶴岡小学校の建物だ。小学校を過ぎてすぐ脇の小道を左折すると江差線の踏み切りが見えてくる。その線路脇にあるのが渡島鶴岡駅だ。

えさし赤い屋根をもつ待合室が踏み切り脇に設置されている渡島鶴岡駅。山形県鶴岡市からの開拓民によって開拓が行われたのがこの地の地名の由来であり、駅裏にある公園にはそのことについて書かれた石碑が建っている。
棒状の片側1面のホームが水田に向かって設置されただけのよくある田舎駅だが、この駅のすぐ近くにはちょっとした珍スポットがある。
駅から徒歩1分ほど。ホームからも見ることが出来るのが曹洞宗のお寺「禅燈寺(ぜんとうじ)」。このお寺のなにが変わっているのかというと、なんとお寺の境内を線路が横切っているというところだ。山門越しに通過する列車を見ることが出来るというスポットは全国的にもきわめて珍しい。なお、訪れる際にはお寺に迷惑がかからないようにしましょう。また、境内の踏切には警報機がないので列車の接近に注意しましょう。

えさし11時52分。渡島鶴岡駅に江差行きの列車が入線する。ちなみに11時30分ごろに渡島鶴岡駅には列車が通過している。通過時間を見計らって禅燈寺の山門と列車を撮影後列車に乗るということも可能なため一度試してみてはいかがだろうか。
神明駅まで行った鉄路を再び走る。神明駅を過ぎても深い山々が続いているがしばらく走ると民家が現れ始める。
「木古内〜江差」間で唯一列車交換が可能な駅である湯ノ岱駅に到着する(12時24分到着)。

えさし湯ノ岱駅は終日駅員が常駐している駅だ。小さな駅舎であるがこの区間においてきわめて重要な役割を果たしている。その役割とは「スタフ交換」という作業だ。
「スタフ交換」とは簡単に言うと、その駅から先の区間に列車が進入するために必要な通行票を受け渡す作業のことを言う。通行票がなければ列車はその先に進むことが出来ない。「木古内〜江差」間はすべての区間が単線区間で列車同士がすれ違うことは出来ない構造のため、列車同士の衝突を防ぐ目的で行われている。
えさし列車が到着すると駅員が大きな輪のようなものを肩にかけて列車の運転手に手渡す。現在ではなかなか見られなくなった作業だ。ちなみに必要な通行票は輪ではなくその先についている金属部分にはめ込まれている。
湯ノ岱駅から歩いて約10分ほどのところに「湯ノ岱温泉 国民温泉保養センター」がある。少しぬるめのお湯で長時間は行っていても湯あたりしないのが最大の特徴だ。湯ノ岱駅を訪れる際にはぜひ立ち寄ってみるといいだろう。
さて、湯ノ岱駅はその昔全国的に名の知れた駅だった。「青春18きっぷ」を今駅で買うと細長い青い色をした用紙に印字されたものが普通である。しかしその昔通信販売でもこのきっぷが購入できたころ、この駅で購入をすると赤いぺらぺらの用紙で送られてきたのだ。これはこの駅には通常の窓口においてあるような切符の発券機が設置されておらず、JR(国鉄)が予め印刷しておいた用紙によって対応していたためだ。現在では近距離切符などのみの販売でこのような切符の販売は行っていない。

待合室には禁煙と書かれているものの、事務室の中では駅員さんがスパスパとタバコを吸っている光景に、「禁煙とちゃうんかい!」とツッコミを入れたいところを堪えて次の列車を待つ。
13時38分。江差からやってきた函館行きの列車に乗り込む。遅れて駅員がスタフを運転手へと手渡し、信号が変わると列車は動き出す(信号は駅事務室で変えてます)。
列車は神明駅を三度過ぎ、険しい峠を越えていく。次に降りるのは吉堀だ。
黄色い駅舎が印象的な吉堀駅に列車は静かに滑り込む(14時04分到着)。

吉堀駅は車掌車を改造したいわゆる「ダルマ駅舎」が鎮座する北海道特有の駅。
駅前の民家(現在も使われているのかは不明)脇には自動販売機が一台あるだけだ。
時折駅前の道路を走る車の音と、周囲に広がる水田や田畑での作業音が遠く聞こえるだけの静かな時間が流れる。
ゆったりとした時間が流れを引き裂くように、遠くから列車の警笛が聞こえてくると、そろそろ列車が入線してくる時間だ。
14時53分。ゆっくりと姿を現した列車はゆっくりと吉堀駅に入線した。

えさし何度目になるかの峠を越え、列車は進む。湯ノ岱を越え、進行方向左側に雄大な天野川が広がる。
湯ノ岱駅と宮越駅との間には、地元の有志が設置した仮想駅「天の川」がある。もちろん本当の駅ではないので列車は止まることはないが、本物の駅名標を模した看板が掲げられており、江差線の撮影スポットのひとつにもなっている。
天の川駅を過ぎ、宮越・桂岡・中須田と停車していく。そして列車は上ノ国に到着する。ここで下車をすることにする。(15時43分到着)

上ノ国駅は上ノ国町の中心部近くにある駅で、北海道最西端に位置する駅だ。周囲にはコンビニや商店、高校があったりと利用者は江差線では多い。
えさし駅舎は上ノ国町の観光協会も入居する建物の一角を使っており、一見すると駅には見えない。少し豪華な民家と言われてもわからないかもしれない。
駅前には国道が走っており、交通量は多い。江差線における貴重な食料調達の場としてのコンビニが近くにあるというのはうれしいところだ。
江差線において食事をするのならこの町がオススメだ。
駅を出て左に進むと飲食店や商店が並んでいる。その一角にラーメン店(ラーメンいちぞう)がある。この店は地元の人が選ぶ地元の名店でダントツの人気を誇る名店だ。あっさりとした味噌ラーメンなどオススメはたくさんあるので、一度味わってみてはいかがだろうか。

腹ごしらえを済ませ、駅に戻る。
ホームは片側一面の単式ホームだが、正面にはかつて使われていたのであろうホームが今でも残っている。
16時24分。江差からやってきた列車が入線をする。数人の下車を待ってから乗車する。ちなみに私のほかにも数人が列車の到着を待っていた。

列車は来た道を引き返して進む。中須田・桂岡と停車をするが降りる人はいない。
天野川を横目に列車は宮越駅に到着。ここで下車することにする(16時36分到着)。

えさし宮越駅は江差線の中では立派で大きい木造駅舎を持つ駅だ。駅舎内には壁に沿って椅子(腰掛)が凄然と並んでいる。現在では利用者も少ないためこれを使う人はいったいどれくらいいるのだろうか?と思ってしまう。しかし、かつてはそんな広い駅舎に入りきれないほどの人が駅を利用していたのだと言うから驚きだ。現在では過疎化と自動車社会へのシフトということを生々しいまでに物語っている遺構とかしている。
駅裏には天野川にかかる橋梁があり、天野川の雄大な流れを橋の上から眺めることも出来る。

さて、ここからは汽車旅から少し別れを告げることにする。
宮越駅から駅前の道路へと歩を進める。目指すのはお隣の駅「桂岡」だ。
駅を出て西方向へと道道を進んでいく。交通量は少ないが、信号などもないためすれ違う車はかなりの速度を出しているように感じる。歩行にて通行するには、車道脇にわずかにある路側帯を通るしかなく、歩道は整備されていないため、車には十分注意が必要だ。
山々に囲まれ、水田や田畑が広がる中をひたすら進む。進行方向の左手には江差線の線路が並走しているが、線路上を移動するということはやめましょう!

えさし歩き始めること約30分。目の前には集落が広がってくる。桂岡地区だ。
住宅街の中心部に桂岡駅は存在している。
吉堀駅と同じ、車掌車を改造したダルマ駅舎が鎮座している。住宅街に位置していることから住民の足となっているのだろうと信じたい・・・。

桂岡駅の訪問が終了したところで、次は中須田駅を目指すこととする。
桂岡駅を目指して歩いてきた道道へ再び戻る。ここからは歩道が整備されているため安心して歩を進めることが出来る。
宮越から桂岡の間はほぼ平坦な道のりだったが、ここからは多少のアップダウンがあるが、険しいというようなものではまったくない。
左手に線路を見ながら歩を進めていくと、踏み切りが現れる。踏み切りは渡らず、その手前の道を右折する。左手に線路があるという光景は変わらない。
ここでも歩道が整備されている。しばらく進むと十字路が現れる。左手には踏み切りがありその傍らにダルマ駅舎がある。中須田駅だ。ここまで桂岡駅から約30分。宮越駅から約1時間程度の小散歩となった。
宮越から桂岡までの間は江差線の中でも駅間距離が短く、かつ道路が並走して走っている区間となっている。また適度に民家があることからクマの出没の心配も少ないだろう(もちろん細心の注意はしてください)。

えさし中須田駅もダルマ駅舎だが、吉堀や桂岡とは少し異なり、高い基礎の上に設置されている。
駅舎内はかつては落書きだらけでかなり汚かったらしいが、今ではキレイに清掃されている。が、今でも落書きは多少残っている。
駅周辺を散策したり、ここまでの移動疲れを癒しつつぼんやりしているうちに日没も迫ってくる。駅舎内の電気も点灯し始めたころ、列車の時間が近づいてくる。
ここまで徒歩移動してきたが、それもここまでだ。
18時45分。ライトを点灯させた列車が中須田駅にやってきた。

えさし中須田駅を出た列車は上ノ国を過ぎると進行方向左側の車窓に日本海が広がる。日没間際だったこともあり、大きな夕日がゆっくりと沈んでいく様子を眺めていると、列車は終着となる江差に到着する(18時58分到着)。





えさし19時08分。わずか10分たらずの停車ののち、先ほどやってきた車両は函館へ向けて再びエンジンをうならせながら出発する。この列車がこの日の江差駅を出発する最終列車となる。
すっかり日も暮れた車窓を眺めながら廃止区間を一気に走りさり、函館駅へと列車は到着した(21時16分到着)。



締めくくりに…


今回はすべての駅に降り立つ(訪問する)ということを目的とした旅を紹介した。
しかし、「湯ノ岱温泉 国民温泉保養センター」での入浴や、江差町内での観光など、ポイントをしぼって楽しむことも出来る。
えさしそれには各々がどのような目的を持って江差線を利用するかによって異なってくるということは、言うまでもない。
温泉にゆっくり入るならば、朝一の列車を湯ノ岱駅で降りればかなりじっくり入ることが出来るだろう。さらに、江差線では1日2本しかない列車交換も湯ノ岱では見ることが出来る。
また江差町内での観光をするのならば、終点まで乗りとおしてしまえば良い。ただし、江差駅からメインの観光名所へは距離が離れているため、バスやタクシーなどを使うといいだろう。

廃止を控え、これからますます脚光を浴びることになるであろう江差線。利用者の減少によって廃止が決定した江差線だが、皮肉なことに廃止決定後は満員に近い状態になる日もあるなど利用者が増加しているとも聞く。
今後も様々なイベントなどが開かれる江差線だが、イベントが多く開かれるようになると問題となるのが、列車の運行に際して障害をもたらすような迷惑行為だ。
駅間の移動に線路上を歩くという人もおり、けたたましい警笛とともに急ブレーキ。運転手が「線路上を歩かないでください!」と怒鳴り声を上げるという光景にもこの旅では出会ってしまった。
規則とルールを守って、江差線の最後をじっくり味わってほしいと心から思う。


《旅のおさらい》
えさし

※この旅の行程は2013年3月と5月の冬と春の期間に実施したものを参考にしています。季節によって日没など状況が大きく変わってきますので、実施の際には十分にご注意した上で、無理のないプランにてお楽しみください。

inserted by FC2 system